われわれローマ人は、自分たちが神々の与えてくれたことを実現する存在に過ぎないことを知っている。
ゆえに、神々がローマ人に与えてくれたことが幸であろうと反対に不幸であろうと、それはわれわれの力による結果ではないことを知っている。
だから、結果が良と出ても高慢にならず、悪と出ても絶望しないでいられるのだ。
共和制ローマ時代の政治家・軍人であるプブリウス・コルネリウス・スキピオが、降伏させたシリア国王の使節に向かって言った言葉。
ポエニ戦争で稀代の戦術家ハンニバルを破り、スキピオ・アフリカヌスの尊称で呼ばれ、輝かしい戦歴を持つスキピオだが、シリア王国に勝っても滅ぼさず、自治を認めローマの一部に組み込む方策をとった。
この共和制時代のローマの「緩やかな帝国主義」は、強けれども高慢とは無縁な質実剛健さがある。
勝つ負けるは、神が決める時の運。
人間は、神の作った運命のもとを生きている、という実感を当時のローマ人は持っていた。
それは、同時代のハンニバルも感じていたことであり、時代こそ違えど三国志時代の曹操孟徳も感じていたことだった。
彼らは共通して、人として最大限のことをやり尽くした上で、人の力の及ばない「運命」のようなもの存在を認めずにはいられなかったのかもしれない。
ちなみにこちらの文庫版は、とても薄くて読むのが苦にならない。
途中の巻から入ってもいける。
もちらん最初から読むと、壮大な歴史にどっぷり入り込める。
「ローマの歴史には、人類のすべての歴史が凝縮されている」